自然をまとう、四季をまとう。

茶道家 北見雅子さん

美を紡ぐ人Vol 2

Profile

北見雅子 茶道家
きたみまさこ
茶名は宗雅そうが)裏千家茶道教授。みやび流和装道教授。京都府生まれ。内面の美しさは生涯かけて磨き続けるもの」と語る。近著に『きちんときもの手ほどき帖』華道師範、書道六段、剣道二段。生家は丹後ちりめんの織元。父は丹後から正倉院に納められた天平聖武絹を復元。

初釜」の設えで迎えてくださった北見雅子さん。

美を紡ぐ人〉第一号では、サクラエの名前の語源でもある「桜の襲かさね)について、天然染料で日本伝統の染織技術を現代に継承する「染司よしおか」六代目・吉岡更紗さんにお話しを伺いました。そこで平安王朝時代の雅の象徴ともいえる「かさね」色や「十二単」の装束についていろいろご教示いただきました。そこには季節や自然を大切にしてきた日本人の繊細な感性や美意識があることを知りました。
では、そんな日本人の美意識は、“現代のきもの”にどのように息づいているのでしょう 。その答えを求めて、私たちは茶道家でもあり、みやび流和装道の教授でもある北見雅子さんを、東京・高田馬場にある茶道会館に訪ねました。
まさに、自然をまとう、四季をまとうのがきものです」と、北見さんのお言葉も吉岡さんとまったく同じ。2024年が良き年になるようにと「初釜」年が明けて最初に行われる茶会)の設えで、私たちを迎えてくださいました。

写真左から)水指は先駆けの梅と水仙、藪柑子(やぶこうじ)梅はめでたい紅白の老梅/桜かさねの棗「誰か袖」桜の花びらが千々に乱れる。初釜らしく茶碗は赤楽・富士山。お道具のすべてがめでたいもの尽くし。

実は私も、ものは面倒だなって思っていました。

きもの姿の人を見ると、きものもいいわね。でも、最近はなかなか着る機会がなくて」とおっしゃる方、多いのではないでしょうか。でも、きものには日本の文化、日本の自然、そして美しさが詰まっています。もし、お持ちならば、ぜひ、お召しいただきたいと思います。かくいう私も、丹後ちりめんの産地で織物屋を営む家に生まれながら、きものは面倒だなと思っていました。楽しいなと思うようになったのは、お茶のお稽古に行くようになってからです。今、お稽古に来られている方も、お茶をきっかけにきものに親しむようになった方も多いのです。もちろん、洋服で来られてもいいのですが、きもののほうが所作の意味がわかるし、動きが美しく見えるように思います。

きものを着ることは自然の恵みを身にまとうこと。

今日のきものは、新年の初釜のために用意したもの。新春にふさわしいピンクのグラデーションは、これから太陽が昇ってくるような、大きく開けていく感じがします。桜のイメージもあるし、春は曙」ともいわれるように、新しいスタートにはぴったり。なんて、自分の中でプチ妄想を膨らませて楽しみます。帯は「向かい鶴」昔から鶴は千年、亀は万年というでしょう。長寿の象徴で、おめでたい吉祥文様なんです。そして、色は白。白は清浄、まっさら。雪のイメージもある。雪は豊年の兆しといって、豊かな実りを生むものです。山に根雪がないと海も困るし、里も困る。きものを通して、そんなことも考えます。きものって、自然の恵みのすべてを着ているという感覚です。蚕の繭から作られる絹もそうですが、麻も綿も自然のものですよね。

衣食住といいますでしょ。なぜ衣」最初にくるのでしょう。

素材もそうですが、染料もそう。今は化学染料も多くなっていますが、もともとはすべて天然染料でした。紫根、茜、紅花… それもすべては薬草で、昔の人は薬草をまとうことで、薬効をもらうという考えだったのです。そして、文様も自然の意匠がほとんど。それも全身に描かれている。その文様で体を包むことで、自然の豊かな恵みを感じられますし、感謝の気持ちにもつながります。全身を覆うということで、安心も得られるのです。コロナ禍で、先の見えない不安でいっぱいのとき、数ヶ月ぶりにきものを着たんです。そのときに感じた安心感、忘れられません。きものの持つパワーを感じましたね。日本には八百万の神という考えありますが、きものの中にも神が宿っていると思っています。帯を締めることで内臓が守れるし、腰骨をキリッと立ててくれる。実は機能的でもあるんです。そして、背中を押してもらっている気がします。衣食住っていいますでしょ。食べないと生きていけないから、食が最初にきてもよさそうなのになぜだろう。そう思いませんか。昔は、衣」は自分がどういう人間なのかを指し示すものだったからだといわれています。お坊さんの衣の色とかが象徴的ですね。

写真右から)春夏秋冬、帯の四季。帯にも日本の季節を象徴する意匠がほどこされている。

四季の装いに自然を映す。日本の美学です。

きものは全身を覆い隠すといいましたけれど、中身まで隠しおおせるものではありません。大切なのは、内面からにじみ出る美しさだと思います。それをきものがさらにパワーアップしてくれるのです。きもののいいところは、同じきものや帯でも、帯揚げや帯締めを変えるだけで季節感を出せること。みなさん、おしゃれの小道具として、ピアスやネックレス、ブローチをつけるでしょう。それと同じ感覚です。最近の帯締めは、応用のきくリバーシブルのものが多いでしょうか。日本人は季節の繊細な移ろいにも敏感。色彩感覚にも独特の感性を持っています。それを大いに発揮できるのがきものです。自分なりのストーリーで柄を合わせ、小物を加えて構成できる。日本文化の粋に、もっと親しんでいただけたらと思います。

写真)帯揚げと帯締め。きものは少ししか持っていなくても、帯揚げと帯締めの色合いでも季節を表現できる。

北見雅子さん、スキンケアどうしてます?

最後に、北見さんのスキンケアについて聞いてみました。実は、ファンデーションが合わなくて、肌を傷めてしまってから、ほとんどノーメイクなんです。体の内面からも変えようと、ビタミンCとプロテインを毎日とっています」やっと最近、回復したばかりだそうです。サクラエのつけ心地、ぜひ、お試しください。

取材日:2023年10月25日