清らかな自然を和紙に映す。

越前和紙工房代表 岩野麻貴子さん

美を紡ぐ人Vol 7

Profile

岩野麻貴子 越前和紙工房代表
いわのまきこ
和紙職人。1968年 3代・岩野平三郎のひとり娘として福井に生まれる。
大学を卒業して3年後、他職を経て、『岩野平三郎製紙所』入社。2016年代表取締役社長に。
一子相伝の技術を受け継ぐ和紙職人、伝統工芸士でもある。

“日本三大和紙”の一つ「越前和紙」。

和紙の工房としては日本最大規模といわれる越前『岩野平三郎製紙所』。
日本画壇に不可欠の雲肌麻紙(くもはだまし)をはじめ、伝統を受け継ぐ様々な和紙に加え、一子相伝の文様を漉き込む手法などを手がけ、常に前進を続けています。
奈良・薬師寺には写経用紙を、唐招提寺にはうちわ用の和紙を納めるなど、その仕事ぶりは多彩です。
福井県越前市の工房を訪ね、4代目社長・岩野麻貴子さんにお話を伺いました。

[写真:岐阜県の「美濃和紙」、高知県の「土佐和紙」と並び“日本三大和紙”の一つに数えられる「越前和紙」。『岩野平三郎製紙所』は現存する日本最大級の手漉き和紙の工房。左の写真は乾燥が終わったばかりの「天平紙(てんぴょうし)]

心静かに無心で和紙を漉く。

わが社の創業は1865年。幕末ですね。初代・岩野平三郎(以降、名は継がれていく)は明治11年生まれ。13歳から紙漉きを始めるのですが、夜中の2時から紙を漉くほど研究熱心で、途絶えていた麻紙を京都帝国大学の東洋史の教授の依頼で復興させました。楮と麻の繊維が絡み合う様が雲のように見えるところから「雲肌麻紙」と呼ぶ、わが社を代表する和紙です。さらに、東京・京都の画壇との交流を深めながら、多様な和紙を開発していきました。
雲肌麻紙は横山大観、下村観山といった大御所から愛され、後年は東山魁夷、千住博など、日本画に欠かせない和紙となっています。(敬称略)

[写真:雲肌麻紙を2人がかりで漉く。ともに心穏やかに、息を合わせないとうまくいかない繊細な作業だ。厚みの頃合いを図りながら漉いていく。漉いた紙は布の間に挟んでいく。]

1500年もの歴史ある越前和紙。

和紙には1500年の歴史があるといわれています。『日本書紀』には、第26代の継体天皇(推古天皇の孫)が皇太子時代、ここ越前を統治していたと書かれていますが、岡太川(おかもとがわ)の上流に美しい姫が現れて、「この地は清らかな水が流れているから、紙漉きをして生計を立てよ」と村人たちに紙漉きを教えたそうです。これは伝説なんですけど、そこから紙漉きが発展したといわれています。この姫は川の上流にいたところから「川上御前」と呼ばれ、紙祖として岡太神社に祀られています。この工房では、楮(こうぞ)、三椏(みつまた)、雁皮(がんぴ)などの木、または麻などの植物素材にこだわり、今なお伝統的な手漉きで一枚一枚丁寧に漉いています。

[写真:製紙所で使用する天然素材。これらは水につけてから、昔ながらの窯で蒸されて和紙の原料となる。]

清らかな水と一子相伝の技術。

和紙を漉くのに一番大切なのは水なんです。このあたりは清らかな水が豊富で、清流沿いには製紙所がいくつも並びます。川上御前から連綿と続く紙漉きの技術は、さらにブラッシュアップされて今につながっているんです。
現在、ここで漉いているのは麻紙、雲肌麻紙、鳥の子紙、お写経に用いる天平紙など30種類ほど。初代から一子相伝で伝承された“打雲(うちくも)”、“飛雲(とびくも)”、“水玉”の技術は、父を経て私が受け継ぎ、いまだに日々勉強しながら作っています。

[写真:原料をつける水、蒸し上がった原料をさらす水。アク抜きをして、小さなチリを手作業で丁寧に取り除く。そして和紙を漉く水。そのすべての工程に越前の清らかな水が使われる。和紙はまさに自然の賜。]

スタッフの8割が女性。60年近く勤める人も。

わが社は大きな紙を作ることが多いので、2人あるいは4人がかりで漉きます。紙漉きはとても繊細な作業で、感情がそのまま出てしまう。イライラしてたら、荒れた仕上がりになる。漉くときは無心でないとダメですね。一緒に漉く人と息が合わないのもダメ。ときにはコンビ解消もあります(笑)。現在スタッフは30名ほど。その8割が女性です。
私は子どもの頃から遊びの一環で、従業員と一緒にチリを取ったりして、仕事には触れてきたんです。ただ、跡を継ぐことがあまりにも重圧で……。大学卒業後は縫製会社に勤めました。3年ほど経ったとき、やはり伝統は守っていかないといけないと強く思うようになり、4代目を継ぐ覚悟ができました。それからは必死です。覚えなきゃいけないことが山積みで。まず、現場でひと通りの仕事を教わるところから始めました。紙を漉くこと自体は数ヶ月で何とかなったのですが、納品の選別をはじめ、責任者としての仕事を覚えるのが大変で。最近、少し慣れてきたかなというところです。

[写真:5尺×7尺(152×212cm)の大判の和紙は2人あるいは4人で漉くことも。工房には岩野さんを中心に、女性スタッフの笑顔が輝いている。]

写経を通し、和紙の魅力に触れてほしい。

わが社は仏教の経典を書写するお写経紙(天平紙)を薬師寺さまに納めさせていただいていることもあって、見学とお写経体験をセットにした取り組みもしています。これまで和紙になじみのなかった方にも触れていただけたら嬉しい。
初代の雲肌麻紙、2代目の薬師寺さまのお写経用紙、3代目による平山郁夫の大壁画や東山魁夷の襖絵の和紙制作など、代々のチャレンジ精神に敬意を表しつつ、新たな和紙の可能性を拓きたいと思っています。(敬称略)
デジタル化が進み、文字を書くことが少なくなった今だからこそ、大切な想いをのせて文字を書き、心を伝えてきた日本の美意識を大切にしてほしいと思います。

[写真:(左から)和紙の魅力に直に触れて欲しいと、工場見学や写経・習字体験も行っている。/岩野さんの和紙の名刺の裏には“飛雲”の技術が。/スタッフが制作したという御朱印帳(右端)には、平安時代からあったという“打雲”の技術が施されている。和綴じの本は現代的なデザイン。工房で購入も可能。]

特別付録/麻貴子さん書道教室

最後に達筆の岩野麻貴子さん、今回サクラエのために「桜」の文字も書いてくださいました。麻貴子さん、ありがとうございました。幼い頃、友だちと通った書道教室を懐かしく思い出しました。

岩野麻貴子さん、スキンケアどうしてます?

驚いたのは、岩野さんの若々しくハリのある肌。豊かな水や蒸気のおかげかもしれませんね。ただ、家に帰るとすごく乾燥するそうで、「サクラエでしっとり潤し、美白に努めます」とのことです。

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取材日:2025年1月16日

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