伊勢根付の魅力を未来へ。
伊勢根付職人 梶浦 明日香さん

Profile
- 梶浦明日香 伊勢根付職人
- かじうらあすか
-
伊勢根付職人。1981年岐阜県生まれ。大学時代からアナウンサーとして活躍し、取材を通じて出会った伊勢根付職人・中川忠峰氏に師事。職人となる。
地域の若手職人グループ「常若(とこわか)」、女性職人グループ「凛九(りんく)」を通じて活動の場を広げ、若手職人の育成にも力を注ぐ。
2018年、ロンドン『DISCOVER THE ONE JAPANESE ART IN LONDON』で大賞受賞。
2025年、三重県文化奨励賞受賞。
技を磨き、円熟の根付職人に。
「地域に根付く伝統工芸の技術を絶やしてはならない」。取材で見えてきた後継者問題を解決すべく、華やかなアナウンサーの世界から職人の道に飛び込んだ梶浦明日香さん。どれだけの努力でここまできたのか。
師匠のような円熟の根付職人を目指して、今日も黄楊(つげ)の木に向かい、鑿(のみ)と彫刻刀を振るいます。
因みに根付とは、江戸時代に印籠や煙草入れ、巾着などの提物を帯から紐で吊るす際に、提物が帯から落ちないようにするための留め具のこと。今でいうチャームのようなもの。実用的な機能に加え、装飾性も高く、日本伝統の工芸美術品としても世界的に高く評価されています。

地域の伝統文化を絶やすまじと一念発起。
なぜ、根付職人になったのか。よくそう聞かれます。NHKのアナウンサー時代、「東海の技」という番組の企画構成から取材まで、すべてを手がけていたんです。東海地方の職人さんたちを訪ねるうち、日本の工芸文化がしっかり受け継がれていることに感動し、その素晴らしさ、クオリティの高さに驚きました。視聴者の反響も大きかった。
ただ、みなさん、後継者がいない。それは、伝統工芸の素晴らしさがちゃんと伝わっていないからだと思いました。職人自身が何も語らないから。つまり、自分の技術を誇らしげに語ることは野暮だと考えているからなんです。これは、誰か当事者が「こんなに素敵だ」と言わなくては、と思いました。職人が声を挙げることが一番効果がある。でも、そんな人、誰もいない。あれ、じゃあ、もしかして私? と思ってしまったんですね。

年を重ねることを喜んで生きていきたい。伊勢根付の世界へ。
女性アナウンサーの定年は30歳なんて冗談でいわれるほどで、自分自身、悩んでいる時期でもありました。若さに価値があって、年を経るごとにマイナスになるなんて。職人は年を重ねていくほうが、作品に精神性が宿り、深みを増していく。根付は使い込んでいくと〝なれ〟というんですけど、だんだんといい色になって価値が増す。年をとることを喜んで生きていきたい。そう強く思うようになりました。
取材で一番やってみたいと思ったのが伊勢根付でした。そこで、根付の国際根付彫刻会会長、中川忠峰さんのもとを訪ねるようになりました。弟子になるということではなく、最初は仕事を続けながら、遊びに行ってときどき体験させてもらう、という感じでした。

ゆっくりと、自分のペースで、一歩ずつ。
4〜5年は仕事をしながら師匠のもとに通い、2010年4月、今思えば無謀ですが、伝統工芸を守っていきたいという一心(勢い)で入門。女性職人の弟子入りは難しいといわれる中で、師匠はおもしろがってくださったんです。
一番最初は、「栗」の根付を販売できるレベルまで10個彫る、というところから始めるのですが、ほかのお弟子さんたちは2〜3ヶ月で完成するところ、私は1年半かかりました。
師匠はゆっくり自分のペースでやればいいと言ってくださって、少しずつ前進できました。

人の心を和ませる仕掛けがある、伊勢根付の奥深い魅力。
下の写真の「お猪口(ちょこ)」の根付、あるオリンピック選手からご依頼いただいたものなんですけど、何の競技かわかりますか。中にフグとサバとイカがいますでしょ。実は射撃の選手なんです。
フグとサバはよくあたる。イカもただのイカじゃなくて、スルメ。スルメはあたりめっていいますでしょ。「よくあたる」という縁起物なんです。
いつもの道具だと、お猪口の中に彫ることができないので、このためだけの道具もつくりました。どうしても一杯の中に入れたかったんです。「一杯の中(あたり)」ということで。おもしろいですよね。こんなふうに根付は、柔らかな木彫りのやさしさ、温かさに加えて、しゃれ、ユーモア、頓智、謎かけなど、持つ人の心和ませる仕掛けがある。
それが伊勢根付の魅力のひとつでもあるんです。

江戸時代、お伊勢参りのみやげものとして大流行。
そもそも伊勢根付はお伊勢参りのみやげものとして、江戸時代に人気を博したもの。モチーフに縁起物が多いのも、お伊勢さんの御利益にあやかるためかもしれませんね。昔は職人さんも何百人もいたようですが、現在はわずか10人余り。
材料は伊勢神宮の裏山からとれる「朝熊黄楊(あさまつげ)」。硬く粘りがあって刃物にやさしいのが特徴です。
江戸根付は「象牙」を使ったものが多いかと思いますが、伊勢神宮には殺生したものを持って入れないので、黄楊の木なんですね。

一生勉強、一生鍛錬。職人の道に終わりはありません。
独立後も職人としての悩みはいろいろ出てきます。周りを見回せば、職種は違えど、同じような若手の職人さんたちがいることが判明。まず、三重県の職人6人が集まって「常若(とこわか)」を結成し、さらに2017年には、東海3県の9人の女性職人が結集して、「凜九(りんく)」というグループを作りました。
こうして旗を立てると、個人でやっているときには考えられなかった、メンバーへの取材依頼や工芸展のお話が舞い込むようになり、それぞれの仕事が世に知られる機会が増えました。今はただ自分たちの仕事を磨きつつ、次の世代につないでいくことをみんなで考えています。
職人の世界は一生が勉強。生涯かけて精進し続けようと思っています。
常若 https://tokowaka.jimdofree.com
凜九 https://link-kougei.com

梶浦明日香さん、スキンケアどうしてます?
いったん仕事を始めると、食事の時間も惜しんで作業に没頭することもあるという梶浦さん。でも、お肌、きれいです。
秋は日差しが弱いと思われがちですが、「『サクラエ』で、しっかりシミのもとを食い止め、美白※にもつとめますね」とのことでした。
※メラニンの「生成」と「 蓄積」をダブルでおさえ、しみ・そばかすを防ぐ
取材日:2025年6月2日
※商品を提供し、いただいたコメントを編集しています。