なぜ大塚製薬が化粧品を? 日本初* の美白化粧品を生み出した研究員の「こだわり」とは
大塚製薬といえば、日々の健康をサポートする健康食品や飲料を展開している企業、というイメージがあるかもしれません。市場にはさまざまな化粧品があふれる中で、なぜ大塚製薬が化粧品「インナーシグナル」の開発を手がけたのでしょうか。大津スキンケア研究所所長・原野史樹さんと研究員の中條美里さんに、開発への思いを聞きました。
*メラニンの蓄積をおさえ、しみ・そばかすを防ぐという美白分野で初めての効能効果が承認(2004年10月 )。
科学的根拠に基づいたスキンケア開発で肌の健康への貢献を目指す
大津スキンケア研究所が設立されたのは1990年。それまで、すでに大塚製薬では医薬品事業や機能性食品、機能性飲料の開発・販売を開始し、企業理念である「世界の人々の健康に貢献する革新的な製品を創造する」を実現していました。
そんなとき当時の社長・大塚明彦氏の考えのもと、「肌の健康にも貢献しよう」という思いから、スキンケア事業がスタート。しかし設立したばかりの頃は、化粧品開発のノウハウはなくゼロからの立ち上げだったそうです。
「当時のメンバーを見てみると、化粧品業界の方や大学の皮膚科教室、当社の医薬品関連部門など、幅広い業界の方を招集して始まったという感じのようです。スキンケアという分野は完全に新規事業で、集まった先鋭が知識を出し合って開発を進めていました」(原野所長)
全く形のない中で始まった新規事業ですが、大津スキンケア研究所では2つの方針がありました。
「なんとなく良さそう」ではなく「本当に良い」化粧品を
「1つは科学的根拠に基づいた製品を開発していくということです。当時の化粧品業界は広告などのイメージが先行していて、肌に対する本当の効果が分かりづらかった時代でした。だからこそ、しっかり科学的根拠によって裏付けされた製品を開発していこう、という考えがありました」(原野所長)
今までにない革新的なアプローチで肌の健康に貢献する
「もう1つは、企業理念にもあるように、大塚製薬独自の革新的なものを作っていくということ。他社の追従でない、全く新しい方向から肌の健康に貢献することを目指しています」(原野所長)
化粧品と医薬品の意味を併せ持つ「健粧品」という言葉とともに、これらの方針は今も変わらず、スキンケア事業の礎となっています。
自然由来の成分「AMP」の発見から日本初*の全く新しい美白化粧品が誕生
新規に立ち上がったスキンケア事業でしたが、方針に基づいたスキンケア商品の開発は「簡単ではなかった」と原野所長は言います。
「『肌の健康へ貢献する』と言っても、肌が不健康になる原因、肌を健康にする方法や指標などの情報は無く、ゼロから調べる必要がありました。
情報収集と試行錯誤を繰り返し、肌の加齢変化の一因が『表皮基底細胞のエネルギー代謝の低下による、表皮ターンオーバーの遅延である』との仮説を立て、細胞が持っているエネルギー物質『ATP(アデノシン三リン酸)』に着目しました」(原野所長)
*メラニンの蓄積をおさえ、しみ・そばかすを防ぐという美白分野で初めての効能効果が承認(2004年10月 )。
細胞のエネルギー量がターンオーバーの鍵に
ターンオーバーとは、肌の生まれ変わりのサイクルのこと。
「細胞内のATPを増やし細胞を活性化すれば、母細胞からフレッシュな細胞が生まれ、肌のターンオーバーが促進され、健やかな肌が育まれる――。そう考え、ATPを増やす要因となる物質を見つける研究が始まりました。それがインナーシグナルの原点です」(原野所長)
開発をしていた90年代初頭は、まだインターネットもなく、情報や原料を集めるのに手間のかかる時代。研究所員自ら植物を採集して抽出したり、入手困難な植物を敷地内で栽培したりしながら、見えないものを探っていく作業が続きました。
「本当にたどり着くのかという不安はありました。でも植物の抽出物には、確かにATPを増やすものがあったんです。ATPを増やす成分はどれか、細胞を扱う実験室で調べ、さらにその抽出物を高速液体クロマトグラフィーという分析機器を用いて、成分を分けました。
分かれたものをさらに分析機器で成分を分けるということを何度も繰り返し、最後の1つにたどり着いたのが、AMPという物質だったんです」(原野所長)
ついにたどり着いた成分AMPとは
たくさんのトライアンドエラーを乗り越え、ついにインナーシグナルの要となる成分「AMP」を発見。AMPはアデノシン一リン酸という成分で、「体の中で情報伝達を担う働きがあり、植物や生物など自然界に普通にある成分」なのだとか。
「最後に導かれた成分があまりに一般的な成分で、しかもATPとAMPはとても近い仲間なんです。最初は拍子抜けした部分もあったのですが、よくよく調べてみると、AMPはATPの原料に使われるだけでなく、激しい運動などでATPが減少したときに増加します。
そしてこのAMPの増加が、体の中の『ATPを増やせ』という信号になっていたんです。生物学的にものすごく理にかなったメカニズムで、これを製品に応用したら本当にいいものができるのではないか、と確信しました」(原野所長)
さらに、AMPという物質が自然界に元々ある成分だったことも、製品化にあたり決め手となりました。
「製品にするには、有効性・やさしさ・品質の3つが重要です。AMPは古くから赤ちゃんの粉ミルクに配合されたり、化粧品原料としても使われてきました。一般的な成分だったがゆえに、その点においてはとてもプラスに働きました」(原野所長)
しかしAMPを発見した後も、苦労の連続。肌のターンオーバーを評価する方法を模索し、試験条件を変えながら何度も試験を繰り返しました。
約10年の歳月を経て、ついに「リジュブネイトエキス」が誕生
そしてついに、AMPが遅くなった表皮のターンオーバーの速度を促進させることが明らかに。新しい細胞が満たされることで肌の水分量が増加し、さらに古くなった細胞とともに、しみのもとになるメラニンを追い出すことで、しみ・そばかすを防ぐことも証明されました。
約10年の歳月を経て、薬用有効成分エナジーシグナルAMP配合の美容液「リジュブネイトエキス」が誕生したのです。
「従来の美白化粧品はメラニンの生成を抑制するものでしたが、AMPの発見によって、当時他にはない『ターンオーバーを促進して色素沈着を予防する』という形で、肌の健康に貢献できました」(原野所長)
信頼性と有効性を両立
ターンオーバーは速ければ速いほどいいわけではなく、速すぎると細胞の成熟が不十分となり、肌あれの原因になります。AMPは、ターンオーバーを促進しすぎないのも特長です。
「AMPの濃度を変えて皮膚に塗布すると、濃度が高くなるほどターンオーバーは速くなります。しかし、あるところでターンオーバーの速度は一定になり、過度に速くはならずシミ予防に有効です。また、たくさん塗ると速くなるものでもありません。
AMPは、正常な範囲内でターンオーバーの遅れを整えることでシミを防ぎます。最低でも1か月は使ってみてください。さらに2か月、3か月と長く使っていくと、その差を感じていただけると思います」(原野所長)
未来の美肌をつくる、毎日朝晩のリジュブネイトエキス習慣
入社以来「インナーシグナル」の研究一筋の中條研究員も、AMPの効果をあらわすかのような美肌の持ち主。ハリ・ツヤがあふれ、シミが見当たりません。
「20年弱、朝晩のリジュブネイトエキスだけは欠かしたことがありません。子どもの野球の応援があるので、日焼け止めもつけるようにしていますが、実はしっかりできていなくて……(苦笑)。それでも健やかな肌を保とうと努力しています。朝晩のお手入れは本当に大切だと思います」(中條研究員)
「実際にリジュブネイトエキスをご使用いただいているお客様からも『心地よさを感じる』という声をたくさんお聞きしています。インナーシグナルには女性を笑顔にしてくれるという魅力があると思います」(原野所長)
進化を止めない! これからもAMPの効果を引き出す研究が基盤に
2005年の「インナーシグナル リジュブネイトエキス」の発売から20年近くとなり、ラインナップは続々と増えています。その間も細やかなリニューアルが行われており、中條研究員は「新しい原料をチェックしたり、テクスチャーに関してはお客様のご意見を参考にしたりする」と言います。
「『インナーシグナル』というブランドは、AMPを軸とした肌の活性化でターンオーバーを促進し、シミそばかすを防いで健やかな肌を育むことを目指しています。そこがきちんと循環するような環境を作ることが、新商品やリニューアルのきっかけになることが多いですね」(中條研究員)
2023年10月には、新商品『SCリッチクリーム』を発売予定。厚くなった古い角層を潤いでやわらげ、AMPの浸透をサポートし、健やかな肌環境を整えるアイテムです。
肌の健康を通じて、幸福な人生に貢献したい
今後もAMPの新機能を探求するのはもちろん、新たな成分を模索し続けていく、大津スキンケア研究所。肌の健康だけでなく「体全体の健康」にも貢献していきたいと考えています。
「肌の健康は体全体の健康にも影響しますし、心にも影響します。心身ともに健やかに過ごして健康寿命を延ばせれば、社会的な貢献度も大きくなります。スキンケアという面から、たくさんの方の『幸せな人生』に貢献していきたいなと思っています」(原野所長)
「肌がくすんでいるな**と感じる方に、ぜひインナーシグナルをお試しいただいて、『今日はなんだか朝の肌の感じが違う!』など、肌の良い変化を体感していただけたらうれしいです」(中條研究員)
インナーシグナルを通じた日々の充実が、人生の充実につながるように。大津スキンケア研究所の願いは、今日も新たな開発へと歩を進めています。
**乾燥による
<プロフィール>
原野 史樹(はらの ふみき)
1992年に大塚製薬株式会社へ入社。大津スキンケア研究所に配属。AMPの有効性評価など、約10年インナーシグナルの開発に関わる。2011年から大津スキンケア研究所所長に就任。
中條 美里(なかじょう みさと)
2003年に大塚製薬株式会社に入社し、大津スキンケア研究所に配属。インナーシグナルやウル・オスの製品の処方設計に従事。2011年からは海外規制及び分析業務を担当している。